小さな保育者と酸っぱい実

 園庭に山桃の木があるのをご存知だろうか。それは、滑り台の横にある大きな木。今、たくさんの赤い実を付けている。山桃と言っても、その実は桃とは全く似ていない。ブツブツしたアメリカンチェリーのようで、味は「酸っぱ甘い」。

 毎年実をつけるのを楽しみにしているのだが問題が一つ。風に吹かれるとたくさんの実が落ちて、それがすぐに腐ってしまうので、まめに掃除をしなければいけないのだ。

 今日も、下に落ちた山桃の実を掃いているところへ、尚くんが登園してきた。

 尚「なにしてんの?」

 保育者「山桃の掃除。手伝ってよ。」

 尚「尚くんもやる。」

 こうして、ある程度の片付いてきたところで、お礼に、黒っぽい大きい実を選んで尚くんに渡した。

 尚「えー尚くんこっちの赤い方がいい。」

 保育者「ふふふ。実が赤いのは酸っぱいのさ。赤い実が段々黒くなってくると甘いんだよ。」

 尚「ウッヒョー!本当?」

 嬉々として実を洗って消毒をし、かじりついた尚くんだった。が…

 保育者「尚くんどう?」

 尚「(物凄い酸っぱそうな顔をしながら)うん。美味しい。」

 保育者「もう一個食べる?」

 尚「もういらない。」

 そう。山桃の実は完熟するわずかな間だけ「甘酸っぱい」のだ。他の時期は「酸っぱ甘い」。大人にはその酸っぱさがまたいいのだが、子どもには人気がない。実際、ほとんどの子がおかわりをしない。

 そこへ、とりの男の子たちが集まってきた。

 侑「なにしてんの?あ、山桃じゃん!食べたい。」

 尚「尚くんはお掃除したから貰えたんだよ。食べたいならお掃除しないと。」

 玲音「やるやる。」

 毎年食しているので、その味は知っているはずなのだが、あの酸っぱさは忘れてしまうのだろう。

 尚「ちゃんと集めないと貰えないんだよ。あ、そこにも残ってるよ」

 小さな保育者のようにお兄さんたちに声をかけ、みんなでまた掃除を始めた。

 尚「先生。なるべく黒いの取ってあげて。その方が甘いから。」

 ついさっき教えてもらったことを、まるでずっと以前から知っていたかのように語る。

 山桃を食べて酸っぱそうにしているとりの男の子たちを見て、今度は女の子たちが集まってきた。

 美晴「なにしてるの?あ、山桃!」

 玲音「お掃除しないと貰えないよ。」

 今度は玲音くんが小さな保育者になっていた。

 玲音「先生。なるべく黒いの取ってあげて。その方が甘いんだから。」

 その後も、こうした小さな保育者がどんどんと増殖していった。

 子どもたちは知ったかぶりで教えたがり。それが真実なのかどうかや、人から聞いた話かどうかなんて関係ない。それは、周りから認められたいという思いばかりではなく、人の役にも立ちたいという思いの育ちでもある。そんな教えたがりのおかげで、自分だけでは経験しきれない、たくさんのことを知ることが可能になって、嘘とも誠ともつかない知識が急激に膨れ上がるのがこの年齢なのだ。

 そんな子どもたちの育ちを眩しく感じる、大きな保育者だった。

 金曜日にはできなかった若宮 光義くんの誕生日を祝った。みんなから色々な質問に、少し照れ臭そうに答えながら、何度も「もう5歳」と繰り返す光義くんだった。 

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