映画が始まる

 出勤すると、椅子が並べられていた。聞かなくても何に見立てたセッティングなのかは、ピンときた。

 保育者「映画館だね!」

 結希人、孝太「そうだよー!」

 見ると、人形遊び用の布団を、椅子の背もたれと座面に乗せ、カバーをかけている椅子がある。

 結希人「こっち(カバーがかかっている方)は子どもの席で、こっち(カバーなし)は大人の席だよ。」

 つまり子どもは後ろで大人は前の席らしい。子どもが前の方が良いのでは?とも思ったが、何か意図があるのかもしれないと、その設定を見守ることにした。すると、その心の声が届いたかのように、すかさず孝太くんが説明してくれた。

 孝太「音が大きくてビックリしちゃうから、子どもの席は後ろなんだよ。」

 きっと以前、驚いた経験があったのかもしれない。それを生かし、細かな配慮を再現する孝太くんの思考力に感心した。

 結希人「映画始まるよー!」

 と呼び込む声に引き寄せられるようにお客さんがやってきた。孝太くんは忙しそうに、「番号は何番ですか?」と尋ねている。どうやら事前に整理番号が配られているという設定のようだ。「5番です。」と答えると、結希人くんが「5番はここです。」と案内してくれる。2人で役割分担をしながらお客さんをさばいていく。

 よく見ると、結希人くんは赤いブロックを子どものお客さんに渡している。

 結希人「後ろの席の人は聞こえにくいから、これを持ってくださいねー。」

 さっそくその設定に乗って、「これはどうやって使うんですか?こうやって耳に当てて聞くのですか?」と尋ねてみると、「違います!手に持ってると音が聞こえてくるんです。」と回答してくれた。どうやらイヤホンではなく、小型のスピーカーなのかもしれない。

 鑑賞の準備は着々と進んでいるようだが、肝心の映画のスクリーンがまだ用意されていなかったが、それに気がついた2人は、何か台になるものはないかと部屋中を探し始めた。それぞれが、「こんなのあったよ!」「これ使えそう!」「いいね、いいね!」と探し出してきた。そして、映画の内容はどうなるのかと思っていると、絵がたくさん描いてある友だちの自由画帳を借りてきて、どうやら、それを紙芝居のようにペラペラめくり、上映するようだ。

 実はここまでで30分ほどかかっている。早くから席に着いていた陽ちゃんと弥生ちゃんは「まだー?」「早く始まって欲しいー!」と待ちわびている。保育者も上映開始を知らせる「ブー!」と言うブザー音を、何度か口にしてみると、準備をしている2人にはそれが、急かされるように感じたようで、「それ、やめてよー。」と言われてしまった。おとなしく待てない保育者と違って、じっと座って待ってる2人に、あらためて感心。

 そして、ようやく上映が始まった。自由画帳のページをめくりながら、「水がありました。」「丸がありました。」と、そこに描かれている内容を駆け足で説明すると、あっという間に最後のページへ。上映準備の熱量に反し、何とも短い上映時間だった。

 そう、2人にとっては、上映に至るまでの準備のプロセス自体が、面白さ楽しさのピーク…それこそが「本編」なのであった。

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