海を作る

 「ビリビリやろうっと」保育者が大きな声で独り言を言いながら、緑色の画用紙を破っていると、子どもたちが集まってくる。「やりたい」「ビリビリする」と保育者に気持ちを伝えながら、すぐに画用紙に手を伸ばす。「これはね、海のワカメになるんだよ」という保育者の言葉に「わかめ?」と疑問形で返ってくる。「そう、わかめ。海の中の草なの」。はなぐみの子どもたちには、まだ難しいのかもしれない。

 先日の絵の具遊びで、障子紙を使って海を作った。青色がグラデーションになっている障子紙が保育室に貼ってある。今日はそこに海底や海藻を作っていこうと思った。

 海の草とは何か、きっとよくわかってはいないかもしれないが、子どもたちにとって、そんなことはどうでもいいこと。今は、指先に力を込めて画用紙を破ることに夢中だ。画用紙が思ったより丈夫で、簡単には破れない。

 保育者が数ミリ破ったものを渡すと、その場所をきっかけにビリビリと音を立てて破いていく。紙が破れる音を耳で聞き、指先にはわずかな振動が伝わっている。その真剣な表情から、目も耳も画用紙に向けられていることがよくわかる。

 何度も繰り返すうちに、自分だけの力で画用紙が破れるようになった。「できたよ!」「破れた!」と笑顔を見せる。

 子どもたちと一緒に海藻や海底を貼っていくと、ただ青いだけだった障子紙が海らしくなっていく。保育者が「海っぽくなったね。」と呼びかけるが、子どもたちにはピンと来ていないようだ。

 「よし、この海に魚も泳がせちゃおう」と保育者が絵の具の準備を始めるのを見ると、「僕たちいつでも絵の具ができますよ」と言わんばかりに、急いで行儀よく椅子に座る。

 好きな色を選び、絵の具を溶いていく。魚のイラストが描かれた紙に色を塗ったり、大きな黒い画用紙に描いたりと、筆を使って自由に描いた。

 「魚を作っている」という意識はそれほどないようで、純粋に絵の具で描くことに夢中になっている。描くときに筆から伝わる感触や、紙が色づいていく様を味わっているのだ。

 描いている時にはどの子も独り言が多い。描くことは喋ること。自分が描いた線や色を見ることで、さらにイメージが広がっていく。「ダンゴムシが〜」「ぐるぐるいくよ」「おーっ」「それー」などなど、一体どんなイメージが広がっているのだろう。何を描いているのか聞いてみたいのは山々だが、邪魔はしたくはない。聞き耳を立てながら見守ることにする。時々「これはダンゴムシなの」「ビューンとしてるよ」と保育者に伝える。自分のイメージを伝える時は自信に満ちた笑顔だ。

 かぜグループの部屋にある壁面の海のように、子どもたち自身が明確な目的を持ったり、創意工夫を凝らそうとしているわけではない。まずは保育者が用意した海の演出の中を漂いながら、創作するというプロセスや、出来上がった作品を眺めながら、海やその生き物などに思いを巡らしてみる…そんな経験をして欲しいと思っている。

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