カナブンの謎

 朝、うみぐみの入り口にカナブンがいた。

 登園してきた子どもたちに見せると、少し警戒しながらも興味津々カナブンを取り囲み、少しでも近くで見ようとポジション争いをしながら、その動き一つひとつに声を上げる。

 「うわ!動いた!」

 「どこ行くんだ。」

 「きゃーこっち来た!」

 「長池公園にカブトムシ捕まえに行ったよ。」

 「カナブンって飛ぶんだよ。」

 「雨雲があると雨が降るんだよ。」

 思いついたことを次々に口にする子どもたち。とにかく自分の知っていることを人に伝えたくてたまらないようだ。そんな会話をもっと引き出してみようと、「このカナブンってどこからきたのかな?」と声をかけてみる。

 「前にね、窓から入ってきたんだよ。」

 「じゃあ、窓から来たんだ。」

 「でも窓はまだ閉まってるよ。」

 「じゃあ、違うか。」

 「おうちは草じゃない?」

 「じゃあ、草から来たのかな。」

 「天井からビューンってきたんじゃないかな。」

 「小山内裏公園でカナブン見たことある!そこからきたんじゃない?」

 「きっとそうだ!この子、小山内裏公園から来たのか。」

 「侵入経路」と「生息地」の二つの話題が混ざっているものの、子どもたちは自分たちの知っていることを総動員して、事実と予想を組み合わせて、言葉のやりとりをしながら答えを見つけ出そうとしていた。もちろん、この時期の「答え」は大人の世界で求められるような正確な「答え」ではなく、子どもたちにとっての「答え」。でも、そうやってこの世界の成り立ちを、自分たちなりに理解していく。

 「動かなくなっちゃった。」

 「死んじゃった?」

 「なんで動かないんだろう。」

 今度はカナブンが動かなくなった。死んだふりをしているのか、いじられすぎて虫の息なのか。子どもたちはカナブンを突いたり、励ましたりしてなんとか動いてもらおうとする。そうこうするうちに、一人がカナブンの周囲を囲むように紐で円を描くと、カナブンが激しく動き出した。

 「歩き出した!ぎゃー怖ーい!!」

 「ぎゃー怖い!」

 「ぎゃー」と大声を上げることが楽しくなり、近くに行っては「ぎゃー」と叫ぶ子どもたちだったが、騒いているうちに、またカナブンが動かなくなった。

 「また動かない。」

 「さっきみたいに紐でやれば大丈夫。」

 先ほど動き出したのは、ただの偶然だと思うのだが、子どもたちは「紐で周囲を囲えば動き出す」という「答え」を見つけた事になる。子どもたちなりの「答え」でいいのだ。ここで、その「答え」で上手くゆかずとも、それはまた次を考えるきっかけになる。案の定、紐で囲んでもカナブンは動き出さな・・・出した!?

 「動いた!やっぱ円くするんだ。」

 「やっぱりそうか。」

 まさか動くとは。紐が枝のように見えたのだろうか。

 「うわ!飛んだ!」

 「探せ!探せ!」

 今度はカナブンが飛んで姿が見えなくなった。

 「見つけた。 ぎゃー!増えてる!」

 さすがにそんなことはあり得ないが、こういう想像遊びも大事なので、保育者もその設定に参加しなくてはと…どれどれ、カナブンはどこかな・・・二匹に増えてる!!!!!!!そんなばかな。

 「魔法だー。」

 「あ、一匹飛んだ。」

 「あれ、いない。本当にいない。」

 いやいや、そんなはずはない。そこのカーテンの裏に着地したのを私は見た。

 ほら、ここに・・・いない!?窓は開いていないし、カーテンの裏もくまなく探したが、ついに飛んだカナブンは見つからなかった。一匹のカナブンが二匹になり、また一匹になった。

 大人の「答え」は正確…と思っていたが、案外、真実が見えていないのは大人の方なのかもしれない。そして、子どもたちの世界には、大人には想像もつかない「正しい答え」があるのかもしれない。

 やっぱり子どもたちの世界は面白い!

 それでも、「今消えたカナブンはどこに行ったと思う?」と次の答えを探してしまう保育者だった。

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