言葉にする
あおぞら・とりさんの登園と共に活気が戻った園庭で、一人ひとりに確認をし、今日は散歩と園庭に分かれて過ごすことになった。
散歩チームは、天気が良いからたっぷりと探索をしたい保育者が担当。保育者も含め、散歩に行きたい者同士の集合である。
保育者が提案すると、子どもたちは遠出をすることを了承してくれ、蒼太くんがリクエストした神子沢公園を目指すことになった。
神子沢公園の道中は長い。その中で長い橋を通るのだが、長い橋を見ると、誰かしらから、「よーい、どん(を)したい!」という声が上がる。今日も、景護くんから声が上がった。
リクエストに合わせ、結構な長距離を2回駆けた。ゴールでは自然と子どもたちが励まし合ったり、抱きしめ合ったり、ドラマのワンシーンのような姿が生まれる。
身体を動かすことや、他者と触れ合いながらその楽しさを味わうことは、本当に心地が良いことなのだろう。
そんな中、景護くんが、3回目の『よーい、どん!』を求めた。
保育者は、その場所からは下り坂になってしまうから、勢いが止めきれずに転倒することを避けるべく、「下り坂が終わってから、もう一度走ろう。」と伝えた。
『出来ないのではない。後で出来る』ということを伝えたかったのだが、『(今)出来ない』ということが強く残ったのか、景護くんは目的地とは反対方向に駆け出した。
保育者の選んだ言葉が分かりにくかったのかもしれない。伝えた時の表情や声色も、否定的な雰囲気が強かったのかもしれない。
危険や相手の思いを知る経験は、子どもたちにたくさんしてもらいたい。でも、自分の選んだ言葉や伝え方は正しかったのかと反省しつつ、散歩中は一人で離れてしまうと危ないことがあること、思った通りに出来ないこともあること、でも後で出来るようになることもあることなどを、皆で一緒に確認した。



その後も、水分補給をしようとした時、ひなたちゃんが「まだジュース(麦茶)飲んでないのぉ!」と突然泣き出した。暑さからの疲れもあり、普段はすんなりと言える「ひなにも、ちょうだい♪」が言い難くなっていたのかもしれない。
柚紀ちゃんは、自分から挑戦した斜面登りで少し足を滑らせ、「怖い」や「先生、来て!」が言えず、目に涙は見えなかったが泣いていた。
景護くんは、「お友だちと手繋ぎたいなー…」と少し大きな声でつぶやき、柚紀ちゃんにそっと手を差し伸べてもらっていた。
大人も子どもも、思いを相手に伝えること、うまく言葉にすることは、なかなか難しい。でも、うまく言葉に出来ない思いを、時には読み取り、時には読み取ってもらいながら、生きている。




