3 DAYS

  卒園式の数日前、当園では「卒園式ごっこ」なるものが始まる。さらにその数週前、どんな卒園式にしようかと子どもたちと相談を始めるのが当園流。そもそも式典というものは、長きに渡る社会の営みの中で醸成された文化的慣習なので、子ども世界の中心にある自発的な「遊びの文化」とは少し趣を異にする。なので相談も、それなりの工夫が必要なのだが。

 まだ生まれて数年の者がこれに対峙する必然性には多少疑問の余地もあるが、日本の津々浦々の園で、こういった式が営まれていること自体、もはや伝統に近い慣習。これも運命、いつかは訪れるこの世との出会いの一つと受け入れ、ならば精一杯、自分たちなりにその意味や形を考えながら取り組んでみようよ…それが、当園の卒園式なのかもしれない。

 オリンピックのようなビッグプロジェクトならいざ知らず、元来、内々の式に練習やリハーサルといったものは無用だ。それは傍らで見聞きしたり、まず脇役として参加したりと歳を重ねながら、段々と身につけていくものだから。

 本当なら何年もかけて知っていくことを、まだ人生数年の者が体現するとなると、それは大変だ。それらの時間を一気に圧縮したような、式当日に向けた濃密な毎日を強いられかねないからだ。

 すると、どんどんと新鮮な驚きや感動、好奇心も薄れ、それは退屈な苦行と化していく。そもそも式とはその日限り、その一瞬にすべてが凝縮されるから意味がある。それが節目というものだ。練習なんてやればやるほど、当日はどんどんとつまらなくなっていく。そういうものだ。

 そして子どもたちの式は、想定通りにいかないハプニングこそが面白い。その偶発性が、まさに彼らが生きる「遊びの文化」とうまく交わるからだ。ちょっと背伸びをして、大人が期待する「式っぽいこと」に挑戦してみる、自分たちなりにイメージをしてアレンジを加えながら、笑い合いながら楽しむ「ごっこ」…そんな塩梅がちょうどいい気がする。

 自分たちで考えた形とはいえ、少し動いてみなければイメージも湧かないし、初めてのことが苦手な者だっている。ただ、当日の新鮮なワクワク感だけは損ねないようにしたくて、いつしかこれをリハーサルではなく「卒園式ごっこ」と呼ぶようになっていったのだった。

 そんな式を迎える前の3日間が、多くのクラスの保育日誌にも刻まれていく。

 3月12日。園庭開催の式が当園流なのだが、雨天に備えて今日は室内で「卒園式ごっこ」。証書の授与の時、担任が個々に送るメッセージはまだ内緒なので、「なんちゃら、かんちゃらで…」と言葉を当てると皆から起こる笑い声。そんな緩さもいいなと感じる保育者。式で歌う少し凝った曲をあっという間に覚えて、それを遊びの中でよく口ずさんでいるので、気づけば4歳児も一緒に歌っている。教える・伝えるのではなく、一緒に過ごす中で、「自然にそれに染まっていく感じ」が心地よいと綴る保育者(4・5歳児「あと3日で」)

 3月13日。朝の遊びが一段落し、いつもと違う窓越しの園庭を目にした2歳児。卒園式ごっこの椅子を並べる様子を、「結婚式じゃない?」と呟きながら興味津々で園庭に向かうと、5歳児の後ろに積み木を並べて一緒に腰を下ろす。「ほら、先生も座って」と横を指差し、拍手を送ったり、歌ったり、アーチを作ったりと一緒に「ごっこ」の世界を楽しむのだった(2歳児「海の生き物」)

 3月14日。「今日も一緒に卒園式ごっこを見ようね」なんて話しながら朝おやつを終えた2歳児たちが、園庭へと駆け出していく。昨日は別の遊びをしながら遠くから見守っていた者たちも、今日は大勢が腰を下ろして一緒に歌を口ずさむ。思いたった時に参加できて、時にそれをしなくたっていい。「園全体でこんな雰囲気が作れていることを誇りに思う」と記したのは若手の保育者だ(2歳児「色々な場所で」)

 同じ日。「卒園式ごっこするの?」という4歳の子。もう気乗りしないのかなと思いながら保護者役を募ると、「やる!」とその子も声を揃える。思い返せば、先日の5歳児とのお別れ会で寂しいと涙した子。「するの?」と尋ねたあの言葉の真意は、そんな思いがこもっていたのかなと振り返るのだった(3〜5歳児「明日は」)

 生まれてまだ3年ほどというのに、これまでの経験と目の前に整然と並ぶ椅子や人の動きを重ね合わせながら、「結婚式じゃない?」と、見事に同じ「式典」を洞察する力に驚き、そして感動する。

 これを育むのは、まだ早いと拒まれるることもなく、どんな営みにも自分なりに関われる経験だ。それはこの「卒園式ごっこ」のように、互いの経験が開かれていることが前提となる。そう、この3日間は、みんなの式だったのだ。

 卒園式への歩み…それは入園直後に始まっていた事に、今更ながら気づくのだ。

(園からの便り「ひぐらし」2025年3月号より)

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