遊びを深める〜とうきょうすくわくプログラム実践報告集

 「そろそろ終わろうか」

 そう言って差し出したその手を思わず振り払うくらい、どうして子どもは遊びに夢中になるのだろう。きっとそれは、その遊びが探究的だからだ。

 天井に映った光、もいだ柿の味、混ざり合う絵の具の色、泥の感触、虫の居場所、落ち葉の乾いた音、坂を転がるどんぐり、焚き火の焦げた匂い、日陰にできた氷…生まれて間もないこの者たちは、毎日が未知との遭遇…モノ・コトとのファーストコンタクトの連続だ。

 それに心を大きく揺らし、いじり、味わい、確かめ、その正体を知ろうと試行錯誤を重ねながら、この世界がどうやって出来上がっているのかを、少しずつ知っていく、わかっていく。だから遊びは大事なのだ。

 そもそも自発的な遊びは探究的なもの。だから面白いのであって、何を今さらと言ってしまいそうにもなるのだが、ここで大事なのは、その遊びを「深める」という視点だ。

 「とうきょうすくわくプログラム」では、それをもう少しイメージしやすい「探究的」といううまい言葉を使って、今日の実践のあり方を揺さぶっているわけなのだが、その背景には、乳幼児期から学童期を通じた今の教育や保育に向けた…こんな問いかけを感じるのだ。

子どもの個性や自主性を大事したい…そんな思いで遊びを子ども任せにし過ぎてはこなかったか( 放任)

少しでも早く「できるようになる」ことを求め、教え込み過ぎてはこなかったか( 先取り)

全員に一様一律な行動や価値観を期待し、集団に適応できる物わかりの良い子を求め過ぎてはこなかったか( 同調性)

園からの便り「ひぐらし」2024年10月号より

 気候変動、エネルギー、少子化、食糧、格差、貧困、飢餓、紛争、難民…これから越えていくべき課題は、簡単に解決できないものばかりだ。正解を選び取る時代から、皆で正解を創り出す時代に入った今、次代を担う者たちが手にしていくべき力となんだろう。

 遊びを深める保育〜探究的な活動…しかもそれを、誰も取り残さずインクルーシブに。この簡単ではない新しい実践の模索が、今ここから始まっていく。

2024年度
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